一人暮らしはつらいよ 前編

親元を離れ、身辺の世話は自分が焼かなければならない状況に身をゆだねて。一人暮らしの憧れと自由の象徴としての大学生活を夢見て数か月の時が過ぎたところであるが、あの頃の自分の威勢は今や見る影もない。洗濯掃除宿題みんなおっかさんがやってくれていたことを自分でこなすのは少し大変だ。前までは衣食住が生活、QOLの核であると考えていたが、見事無残に怠惰という名の悪魔の誘惑に屈し、既製品、衣服の使いまわしとすっかり大学生のテンプレートのような生活を送ってしまっている次第だ。家族分の家事を毎日こなしていた親の力を考えると実は人間ではなかったのではないかという疑念は頭をよぎりませんが、育ててくれた親への感謝の念がより一層深まる大学生活のスタートダッシュであった。一人暮らしのもう一つの困難は起こしてくれるノイズが存在しない点だ。以前までは安眠というユートピアを汚す親の「起きなさい」の一言は良くも悪くも僕の行動エネルギーをため込むために必要であったと感じる。今では、いくら夜をふかして、ナイトフィーバーに興じようとも誰も邪魔しないし、眠れと言われればいくらでも眠ることはできる。無機質なアラーム音は僕の耳には届かない、ましてや親のノイジーな声など到底耳に届くはずもない、しかし、両者は全くと言っていいほどに性質を異にしている。親の声は耳には届かないが、心に届くのだ。これは親が超能力者でテレパシーを使うことができたからだと思うが。